「サッカーにおける"賢さ"とは何か?」2-3「戦術分析のプロセスと特徴」
そして皆様、突然ですが私はBUMP OF CHICKENが好きです。(この発言の意味は、終盤に明らかになります)
研究に参加してくれた指導者の1人は、あるチェックポイントを共用してくれた。それは「5W」と名付けられている。
1W - WHO: 誰がアクションの主体になっているか。
2W - WHAT:アクションには何が含まれているか。
3W - WHERE: アクションが発生している場所はどこか。
4W - WHEN: アクションの予測とタイミングはどのようになっているか。
5W - WHY: アクションを起こす理由は何か。
これらのチェックポイントは、トレーニングの適切な文脈設定において重要となる。例えば、1Wは「トレーニングの構造と参加する選手の数」を規定する。2Wは「トレーニングの内容と、参加する選手に求められるプレー」を決定し、3Wは「アクションの方向やフィールドの大きさ、ピッチの場所や可能なパスの種類」に影響を及ぼす。
4Wは「トレーニングの量、組織と強度」に直結しており、5W は更にトレーニング論に特化した「コントロールされた発見や、指導者からの問いかけ」と関連している。
そして、ここに「6: HOW」 が加わる。選手がどのようにトレーニングで提示された課題を解決するのか、という視点だ。
あるポルトガル人コーチは、次のようにコメントしている。
「指導者にとって重要なのは、単なる解答を与えることではありません。我々はトレーニングセッションの中に、選手にとっての課題を用意しなければならないのです。あくまで選手が自ら気付き、「その問題を解決する手法を探究する文脈」が必要なのです。チームのゲーム哲学が最重要なのは承知していますが、選手たちは個々に「哲学を再定義」していかなければなりません。特に細部までの定義は、選手たち個々に与えられた責任区分となります。つまり、我々のトレーニングセッションはマクロの次元におけるチームを尊重していかなければならないのです。同時にその中で、選手個々が判断するミクロの次元についても突き詰めていく必要があるのです。私にとって、トレーニングはカオス決定論的な思想に支えられたものです。先ず、分析はマクロ次元を重要視していかなければなりません。一方で、ミクロ次元では選手に自由と発見が与えられます。
同様の思想は、トレーニングの状況やコーチの介入にも適用可能だ。
あるフレームワークの中で、コーチが働かなければならないと仮定する。しかし、そのフレームワークの中で発生する事象は必ずしも我々がコントロールしなければならないものではない。
自らの働くべき状況について考えなければならない選手のことを、イメージしてみよう。彼らは自分自身に意識を向けるだけでなく、自分だけの方法を模索するはずだ。彼らは自らの目標を設定しようとするが、「どのように必要な基準を定めるのか」という視点が無ければそれは不可能だ。分析とプレー哲学は、我々の進むべき方向を設定する。それはルールによる罰則ではなく、あくまで標識のようなものだと考えるべきだろう。
研究に参加した指導者の1人は、次のように述べている。
「フットボールにおいて、完全に文脈から孤立した局面は存在しない。私とボールだけが存在するのではなく、多くの要素が影響を及ぼしている。要素が多いので、我々は限定的に要素を抽出していく。身体は我々が欲するよりも多くの要素を吸収してしまうことが多く、無意識こそが決定に強い影響を及ぼしている。トレーニングにおいて、最大の目的は試合でプレーすることだ。そしてゲームで適正なプレーをするには、毎日同じトレーニングを続けてはならない。先ず我々は集中しなければならない。何故なら倦怠感によって、同じ構造のトレーニングを続けることは難しいからだ。だからこそ我々に求められているのは、統一された思想と目的をベースとした多様なトレーニングを構築することだ」
このような手法を効果的に活用するには、特定の事象に近い文脈を作り出す分析能力が欠かせない。それは本研究の目標でもあり、我々がどのようにトレーニングを構築するかという選択の余地を残す。
個々の観点から考えれば、状況における問題の認識からトレーニングの確立には5つのステップを踏まなければならない。
1. 状況における問題の認識
2. 問題の分析
3. 問題の理解
4. 状況を変化させる意思
5. そのような状況に即したコーチング
5つのステップはそれぞれの特徴を有しており、次のステップに円滑に移行することを可能にする。
1. 問題の認識
a) ゲームにおいて、どのような問題が発生しているのか?(問題の内容)
b) ゲームにおいて、プレイヤーの行動を規定している原因と状況は何か?(文脈)
c) 問題は、どのように、いつ、どこで発生しているのか?(特徴)
2. 問題の分析
a) 問題を構成する要素は何か?
b) 問題の個人、グループ、チームという視点からの特徴
c) 何故選手やグループ、チームは最適解を選択出来ないのか?
d) 我々がアイデンティティやゲームモデル、ビジョンを共有することでどのような要素が向上し得るのか?
3. 問題の理解
a) 指導者として、自分が5Wルールの原因と効果を理解しているのか?
b) 自分は、問題を選手に与えられる状況の特性を理解しているのか?最適な解を与えずに、彼らが自発的に気づく環境を保てるのか?
c) どのようなトレーニング内容やコンディションが不十分であり、我々はどのように改善すべきなのか?
4. 状況を変化させる意思(アイディア):
a) 理解をベースとして、選手の判断効率を高めるにはどのようなアクションが必要なのか?
b) トレーニングメソッドのデザインによって、どのようなコンディションが最適な選手の理想的な解決策を導くのか?
c) 仕事環境と、フットボール哲学の考慮
5. 状況に即したコーチング:
a) トレーニングメソッドの導入と、適切な情報を与えるプロセスの整備
b) 分析に使用する情報の絶え間ない探究
c) トレーニングにおけるリズムとコンディションの管理。前進、後退、モチベーション、ルールの分類、指導者からの質問など。
【Profile】
スワボミル・モラフスキ
若手指導者を積極的に登用するポーランドにおいて、若干30歳でUEFA-Aライセンスに合格した俊英。「認知科学」というアカデミックな知識をした分析と緻密なトレーニング設計に定評がある。大学ではフットボールマネージメントとコーチング、大学院では人的資源活用とコーチングを専攻。様々なクラブでアナリストとして活躍し、ポーランド1部シロンスク・ブロツワフではU-19アシスタントコーチとアナリスト部門のトップを兼任。2020年にはポルトガルリーグ1部のポルティモネンセでアナリスト兼コンサルタントを経験し、指導者教育にも携わっている。欧州では多くのセミナーや大学にも招待され、選手のプレー改善も得意としている。Jリーグの選手とも契約しているなど、活躍の場は多岐に渡っている。
- middle and low block in 5-3-2 X 3-2/3-1 Juve build up structure
-Barella/Brozovic/Vidal to close central channel
-Hakimi/Young with pressing triggers to the sides
-Lukaku/Lautaro directing pressing
@slawekmorawski @InterMilanFC
訳者(結城康平)コメント
A「見えないものを見ようとして」
B「望遠鏡を覗きこんだ」
A「静寂を切り裂いて」 ル・モラフスキ
B「10代の若者が、高確率で知らなさそうな歌からスタートするのはやめろ」
A「いや、この歌からスタートしたのには理由があるんだ。認知はどうしても、指導者から見え辛いというリスクをモラフスキ氏は再三指摘している」
B「うむ、あくまで選手の脳内におけるプロセスだから当然だな」
A「そうなると、認知能力を鍛えるといってもトレーニングが難しいだろう。ここで、最初に出てくる『5W』が実用的だ」
B「このチェックポイントは、元々あるトレーニングの評価やアレンジにも使えそうだな」
A「同時にトレーニングとプレーモデルのリンクが、マクロとミクロの視点から分析されている。これもありがちなプレーモデルが自由を奪うという発想とは真逆だ」
B「『標識』というワードはなかなか判りやすいが、これはあくまでも駐車禁止のようなルールを示す標識ではなく、落石注意のように意識を促すものだと考えるべきなのかな」
A「そして、その後に望遠鏡を覗きこむプロセスが始まる」
B「???ああ、そういうことか。情報の取捨選択だな」
A「そう。無意識からの影響から脱却するには、選手が自らの責任で哲学を再定義しなければならない。つまり、標識としてのゲームモデルを参考に自ら判断することで正しい運転を可能にするということだ」
B「そこで、トレーニングの話になっていく」
A「これも決して、突然の話ではないんだ。つまり標識としてのゲームモデルを参考に判断するには、トレーニングの環境を与えられる必要があるということなんだ」
B「ここで分析とトレーニングが繋がる訳だ。おお、なんかすごいな」
A「繋がりがないようで、繋がっている。ここがポイントだ」
B「天体観測は名曲」
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