マッチレビュー リバプールvsレスター・シティ「魔の10分間」

プレミアリーグ上位を狙える若武者を揃えたレスター・シティは、台風の目として波乱のシーズンを彩っている。彼らをプレミア上位に定着させたブレンダン・ロジャースが古巣リバプールと激突した一戦は、展開の読めない衝撃的なゲームとなった。
結城 康平 2021.02.17
誰でも

 リバプール時代は次々と若手を抜擢し、スティーブン・ジェラードをビルドアップのメカニズムに組み込んだブレンダン・ロジャースは、再びトップレベルの監督として評価を高めつつある。スコットランドの強豪セルティックでは競合するクラブを圧倒し、レスター・シティでは継続的な強化に着手。イタリア人監督が起こした奇跡を懐かしむ暇もなく強化を続けるクラブにおいて、若手の育成と抜擢に長けた男は最適解となっている

 簡単には倒せないプレミアリーグの曲者として存在感を高めつつある彼らは、ロジャースの古巣であるリバプールにとっても厄介な相手となった。

 ユルゲン・クロップ率いるリバプールは、マンチェスター・シティとの試合で1-4の敗北を喫している。パフォーマンスは悪くなかっただけに、3点差は簡単には受け入れ難い結果だろう。センターバック2枚の前進を巧みに抑えられ、守備戦術を使い分けるグアルディオラの駆け引きに苦しめられた彼らは、その圧倒的な攻撃力を削ぎ落とされていた。ハイプレスで名手アリソンのミスを誘われたことも、彼らにとっては大きな誤算だった。

 更に悪循環は続くもので、筋肉系のトラブルでファビーニョが離脱。負傷離脱が多いセンターバックの代役として守備を引き締めていたブラジル人MFの不在で、冬に獲得したオザン・カバクに白羽の矢が立つことになる。

 今回は、比較的レベルの高いパフォーマンスを披露したリバプール相手に立て続けにゴールを奪うことで勝利したレスター・シティを題材に、番狂わせの背後で何が起こっていたのかを考察していきたい。

●レスターの定めた「トリガー」と、王者リバプールの意地

 前線に絶対的なエースであるジェイミー・ヴァーディを置き、若きスター候補ジェームズ・マディソンがその背後をサポート。基本的に2人を残しながらボール非保持の局面では4-4-1-1を選択したレスターの特徴は、「サイドへの極端な密集」だった。特にリバプールが昨シーズン改善したスローイン*でボールを持たせないように、彼らはサイドに十分な枚数を用意。リバプールのサイドバックがボールを受けたタイミングやスローインをトリガーに、彼らはコンパクトな位置関係からプレッシングにシフトしていく。

彼の実力を懐疑的に見ていた人々も少なくないが、異色の専門家は実績で周囲を認めさせつつある。就任前にはプレミアリーグ18位の成功率(45.4%)だったリバプールのスローイン成功率は、68.4%まで上昇。
リバプールの優勝を支えた「スローイン革命」参照

 リバプールは序盤レスターの積極的なプレッシングに手を焼いたが、徐々に裏のスペースと逆サイドから速攻。裏へのボールでハイラインの背後を破るような鋭いプレーから、4枚を前線に押し出すようなハイプレスでレスターのビルドアップを牽制。GKカスパー・シュマイケルのところで長いボールに逃げなければならない状況を増やし、ロジャースの得意技であるビルドアップを封じた。

 ジェームズ・ミルナーの負傷退場で急遽出番を与えられたチアゴ・アルカンタラが判断のキレを欠いたことでプレッシングからボールを失う場面もあったように、レスターも簡単には主導権を譲らない。特にプレッシングを狙われながらも終始意識していたのは2つのパターンで、1つは少し低めでボールを受けた両サイドのアタッカーがサイドバックを誘い、その裏をヴァーディーが狙うパターン。そしてもう1つが、リバプールの3センターではカバーしにくいサイドバックへの浮き球だ。レスターのバックラインはリバプールの激しいプレッシングに手を焼いていたが、狙い通りにプレスを回避する場面も散見された。同時にリスクを恐れずにハイラインを続けながら、危険な局面では的確な判断を続けていたCBジョニー・エヴァンスの貢献も見逃せない。


 リバプールの得点シーンまでの攻撃は、昨シーズンまでの王者が理想としていた展開だ。右サイドの深いポジションにCFのフィルミーノが流れ、奪われてもアーノルドと執拗にプレッシングを継続。そのまま徐々に圧力を強めていくことで、レスターの時間を奪っていく。ここで何度も効果的なボール奪取を見せたのが、右サイドのチアゴと左サイドのロバートソンだ。前を向いてサイドへの縦パスを奪いながら次の攻撃に繋ぐプレーで、彼らが敵陣でのプレーを継続することを可能にしていた。得点シーンもプレッシングから相手の不用意なパスを誘発し、アーノルドがインターセプトしたところからスタートしている。密集地で華麗なダンスを披露したのはフィルミーノだが、その前の展開こそが王者のスタイルだったのだ。狭いエリアに閉じ込めるように攻撃を継続し、大胆なオーバーラップで攻撃に厚みを加えていく。同時にクロップは後半からカーティス・ジョーンズを攻撃的なポジションに配置し、ワイナルダムとチアゴをダブルボランチで並べる構成を選択。これは中盤で、危険なスペースが生まれるリスクを考慮した決断だった。

●リバプールを襲った「魔の10分間」

 78分にマディソンのフリーキックが決まり、同点に追いつかれたリバプールは「魔の10分間」を味わうことになる。81分にはミスから逆転を許し、更に85分にはスルーパスから3点目。しかし、その「前兆」がなかった訳ではない。

 注目したいのは、「69分55秒」からの展開だ。リバプールにとっての綻びは、予想外の小さな動きからスタートする。左サイドからボールを受けたワイナルダムがドリブルを仕掛け、カーティス・ジョーンズがボールロスト。ここでリバプールは、ジョーンズ、サラー、マネが前線で足を止めて取り残されてしまっており、チアゴも危機を察知しきれていない。前線のヴァーディに簡単に当てられた状況でヘンダーソンが釣り出されており、下げたボールをノープレッシャーでティーレマンスが運ぶ。そこからのスルーパスはアーノルドがカバーしたが、DFラインが崩れた状態で蹴ったボールを再びレスターに回収されてしまう。アーノルドが戻りきれないまま、左に流れたカバクがファールで倒してしまった場面は、小さな綻びが積み重なったような「前兆」だった。

 ここでリバプールが避けるべきは、中盤での安易なロストとリスクマネジメントを軽視したプレーだった。特に右サイドへ深く侵攻することでハーヴィ・バーンズを抑えていたことを忘れてしまったことで、彼らは「手痛い代償を支払う」ことになる。1点目のキッカケになったプレーも、チアゴがフィルミーノに繋いだボールを中央で奪われることで、そのままバーンズに運ばれたことを原因としている。ここでも、その少し前にバーンズはドリブルを仕掛けていたので「高い位置に残っている」状況だった。一番最初にプレーを切ろうと大きく蹴り出したヘンダーソンのように割り切って判断していたら、このような事故を避けられていたかもしれない。

 数分後の衝撃的な失点は、カバクとアリソンの連携ミスが原因だ。しかし、そのミスを誘発するロングボールを蹴ったティーレマンスに「リバプールの選手が身体を寄せられていなかったこと」も事実だ。チアゴとワイナルダムは流れの中で前方に出ようとしてしまっており、セカンドボールへのリスクマネジメントが甘くなってしまった。ロバートソンも失点に焦り、無理な縦パスから奪われたボールを繋がれている。

 3失点目も同様で、中盤のプレッシングが機能不全。良い体勢でインターセプトした相手にチェンバレンが慌ててプレッシャーをかけようとしたところを簡単に外され、遅れたワイナルダムもカバーリングが間に合わない。スルーパスを通された時点で、致命的な場面だった。

 このような失点の原因は、主にプレッシングの空振りと中盤でのボールロストにある。特にスペースを埋めるべき場面で、どうしてもワイナルダムとチアゴは前にチャレンジする意識が強く、ジョーンズやチェンバレンも同様。攻撃でも前に出ていこうとすることで、中央の広いスペースを何度も破られている。ヘンダーソンやファビーニョのような本職を中盤の底に置けていないことは、彼らのようなリーダーによる「プレッシングを狙うべき場面」と「スペースを埋めるべき場面」のコントロールが効いていないという問題を発生させている。

●もう一度、原点に戻るべき時

 チアゴ・アルカンタラの獲得やカーティス・ジョーンズの成長が、リバプールに中央でのボール保持という魅力的なオプションを提示していることは疑いようのない事実だ。加えて、サラーとマネが中央での攻撃に参加する傾向が強くなっていることで、どうしても狭いスペースから攻める意識が強くなっている。

 しかし、本来のリバプールは両WGと両サイドバックが連携しながら攻め込むことで守備のバランスを崩し、円滑にプレッシングに移行することを得意とするチームだった。実際に、レスター戦においても「両サイドからの波状攻撃と、プレッシングのコンビネーション」からゴールを奪っている。特に中盤の底でプレッシングをコントロールするMFが不在の今、レスターの中盤で存在感を発揮していたディディの守備範囲で安易に勝負することは避けるべきだった。セカンドボールを拾えている時間帯は良くても、90分間の継続は難しい。怪我人の多さが戦術の幅を狭めてしまっている厳しい状況から脱出することを考えたとき、求められるのは原点回帰とリスクマネジメントだ。パフォーマンス自体は悪くないからこそ、鍵になるのは持続性だ。

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