世界で一番わかりやすい「サリーダ・ラボルピアーナ」解説。

難解な専門用語も少なくない「欧州フットボールの戦術」という世界への入り口として、可愛らしいtori(@gib_mir_3pt)さんのイラストを使いつつ、紹介する解説記事になります。あなたもこれを読めば、明日から世間話の中で「サリーダ・ラボルピアーナ」というワードを使えるかもしれません。
結城 康平 2020.10.08
誰でも

スペインの強豪クラブFCバルセロナのユースチームであるラ・マシアに13歳で加入し、天才ヨハン・クライフに抜擢された細身のMF。中盤から長短のパスを散らす指揮者のようなプレーを得意とした青年は、引退後に指導者の道に進むことになる。

詳細なプロフィールについては、ここで説明するまでもないだろう。検索すれば、彼の成功に彩られたキャリアを知ることは難しいことではない。その男の名は、ペップ・グアルディオラ。

湧き水のように溢れ出るアイディアを使いこなす戦術家が愛する戦術的アイディアの1つが「サリーダ・ラボルピアーナ」だ。

この呪文のような言葉は、一体何を意味するのだろう?その用語が表す戦術的アイディアを、今回は可愛い鳥のイラストで学んでいこう。

「数的優位」は何故重要なのか?

上の図は、サッカーにおける基本のフォーメーションとして知られる4-4-2の一例だ。

「灰色の鳥さんチーム」は4-4-2のFW2枚が、「水色の鳥さんチーム」のセンターバック(CB)2枚にプレッシャーを強めている。

こうなってくると、なかなかCB2枚にはパスが出せない。奪われたら大ピンチになってしまうので、CBは積極的にボールを貰えないのだ。

このように相手と自分たちが、あるエリアで同数になっていることは「数的同数」と呼ばれる。

基本的に古来より、サッカーでは相手のFWより少なくとも1人多くの人数で守ることが推奨されている。相手をひたすら追いかけていくマンツーマンが主流だった時代は、相手の前線が2人いるときは2人のマーカーを用意し、彼らが失敗したときのカバーをこなす選手を1人配置していた。+1となる選手を置くことで、リスクを軽減するのだ。

これは皆さんの職場をイメージしてもらうと、理解しやすいかもしれない。2つの仕事を2人の担当に任せたと仮定すると、それぞれが休んだときにサポートが難しい。

2人のメンバーが担当としてそれぞれの仕事に対応しつつ、その両方の仕事をサポートする1人がいればリスクは軽減される。

担当が1人休んでも、サポートメンバーがヘルプに入ることが可能になるのだ。

守備側はゴールを守らなければならないので、リスク管理が重要になる。そうなると、1人が対面する相手に負けたら終わりという状況は避けなければならない。

だからこそ、カバーとなるサポート役を保険として用意するのだ。このように、数で優勢になっている状況を「数的優位」という。

サッカーが11人と11人のスポーツだからこそ、常にエリアの数的なバランスは重要となる。1対1の連続から逃れていく流れは、言い換えれば「サッカーの戦術史」に等しい。

古来の武士が個人主義をベースにしており、刀での接近戦を得意としていたように、レジェンドと呼ばれるような創成期のサッカー選手たちは圧倒的な個人能力を誇った。武士が徐々に集団で規律を守る戦術をベースにした集団に変化していったのと同様に、サッカーも集団競技になっていったのだ。これは、ある意味で当然の流れなのかもしれない。

「数的優位」を作る解決策

次の図は、1羽の鳥が何かを思いついたように、1列後ろに移動した状況だ。

これによって、困り果てていた2枚のCBは悩み事から解消される。この状況になれば、突然CBは近い位置に味方がいるままで「数的同数」を解消する。一つの動きによって、突如中央のエリアが「数的優位」になるのだ。

こうなると困ったのは「灰色の鳥さんチーム」である。目の前で選択肢が増えたことで、どうしても迷いが生じる。CBと移動してきたMFのどちらを見れば良いのか、彼らは混乱してしまうのだ。

このように守備においては日常的に使われていた「数的優位」の思想を応用したのが、「鳥の移動」ではなく「サリーダ・ラボルピアーナ」と呼ばれる戦術用語なのだ。日本でも造語として「アンカー落とし」と呼ばれることもあるが、これは中盤の底になる選手がアンカーと呼ばれており、彼が1列後ろに「落ちる」システムの性質を言語化したものだ。

実際のところ、単語を覚える必要はないと筆者も考えている。「サリーダ・ラボルピアーナ」と噛まずに言えたことはないし、普段も「サリーダ 戦術」と検索している。むしろこの記事も、編集の段階まで誤字があることに気付かなかったほどだ。

最も大事なことはメカニズムを理解することであり、実際の試合から「メカニズム」を見つけることなのだ。

そしてこの動きには、副次的な効果もあった。一粒で二度美味しいからこそ、このシステムは現代フットボールにおける「必修」となっていく。

後方で3vs2を作ることで、両サイドの鳥が暇になる。そうなれば、両サイドの鳥は一気に広がるスペースに進出することが可能になるのだ。

これによって、サイドバック(SB)というポジションの選手が攻撃に参加する潮流は加速していく。今では守備的なSBは絶滅危惧種に近く、ウイングのようなプレーを得意とするSBが欧州に溢れている。

このように、「サリーダ・ラボルピアーナ」にはSBを最後列から解き放った効果もあった。

SBはサイドを駆け上がり、相手陣地で「数的優位」を作り出す。後方での「数的優位」で相手のプレッシャーを避けながら、最大の人数を攻撃に活用していくのだ。

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