「サッカーにおける"賢さ"とは何か?」2-2「戦術分析のプロセスと特徴」

今回は、UEFA-Aライセンスを修了したポーランド人指導者、スワボミル・モラフスキの論文を独占公開。認知科学と指導のスペシャリストが語る、サッカーにおける「賢さ」とは?

第2章のテーマは「戦術分析」。今回はゲームモデルの構築における「戦術分析」の必要性に切り込んでいく、重要なパートになります。
結城 康平 2021.01.06
誰でも

   戦術分析は複雑なプロセスであり、「質的な特性」を持っている。つまり、「与えられた情報の取捨選択」と「情報を提示するプロセス」が鍵となっていることに疑いの余地はない。それが試合後の分析であっても、試合前の分析であっても、味方や敵のスカウティングであっても、その重要性は変わらない。本研究の参加者は、下記のように戦術分析の本質を説明している。

「私の意見ですが、戦術分析はレポートやビデオ映像、プレゼンテーションなどの典型的な手法で提示されるだけのものではありません。毎日の義務として、指導者は戦術分析について考えなければならないのです。それは全てのトレーニング、全てのメニューに密接に関連しています。試合についての明確なアイデアが無ければ、練習における文脈を決めることは不可能なのです。つまり、分析は『日々のプロセス』として理解する必要があります」  

 加えて、上記の情報をどのようにグループが参考にすべきかという点にも言及しなければならない。他のコーチは、次のようにその理由を述べている。

「戦術分析は、相手と味方の『組織的・個人的な意思決定プロセス』を示さなければなりません。それがトレーニングセッションのデザインにおける、欠かせない基盤です。トレーニングを、個々とユニット・チームの意思決定と切り離して考えることは不可能です。例えばプレッシングをする際、どのように個人・ユニット・チームでプレッシングを仕掛けるべきなのでしょうか?相手がリトリートして守っているとき、どのようにそれを崩していくべきなのでしょうか? (そして逆説的に言えば、どのように相手は守備の局面で判断しているのかも考察しなければなりません) 我々は試合中、それまでに視認したことがあるイメージ(Picture)を使って解決策を導こうとします。この意識は、あなたのトレーニングを文脈に沿ったものに一変させるでしょう。(明確な成果、明確な評価、明確なコーチングポイントが、選手にとって成功の鍵になる)。そして、現実に即したトレーニングをデザインすることも重要になります。

 練習において「指導者が実際のゲームに近い局面を認識すること」になれば、それは選手にとって最も効果的な学びの場となる。トレーニングにおける戦術分析の導入については、後程更に詳しく紹介する。

3. 練習における、戦術分析の活用

 多くのコーチが戦術分析をトレーニングに導入するときに最初のスタート地点とするのが、「戦術的な原則」だ。そういった原則は、組織、グループ、個人という3つのレベルに存在している。ある指導者は、次のように結論付けている。

「戦術的な原則こそ、トレーニングと分析における一般的なスタート地点となります。それは組織、グループもしくはセクター、個人の原則に分別されています。学習とトレーニングの円滑なプロセスを考えれば、アナリストは指導者と同じ言葉を使う必要があります。そこには、一貫性を保つ必要があるのです。トレーニングセッションの特異性は、指導者が選手個人に着目すべきなのか、グループに着目すべきなのか、チーム全体に着目すべきなのかを明確にします。プレッシングのトレーニングを例に考えてみましょう。3つの側面を組み合わせながらトレーニングをピリオダイゼーション的に浸透させることで、選手は最適な状態で次の試合の準備をすることが可能になります」

 分析とトレーニングが切っても切り離せないことは、次の研究参加者がコメントしている内容からも明らかだ。「ゲームモデル」が明確に定められていれば、指導者の分析は「選手のフットボールIQと意思決定能力の本質的な向上」を促す。トレーニングメニューは常に分析の鏡であり、ゲームモデルとも結合していなければならない。それは、パフォーマンスを促進する新たな視点と行動に繋がっていく。分析とトレーニングの特殊な関係性は、図5をご覧頂きたい。

図5: 分析とトレーニングの関連性(アイディア⇒コミュニケーション⇒説明⇒刺激⇒刺激)

 理由無しに、アイディアや文脈が規定される訳ではない。自分たちのフットボール哲学をベースに、意志が生じる。

 アイディアは「我々の意識的な行動サイクルをスタートする地点」であるが、それをピッチで表現するには「分析ツールの注意深い活用」が求められる。それは単なる、可視化ではない。適切なレベルのコミュニケーションと、効率性の両立は指導者にとって最大の課題となる。

 選手とのコミュニケーションそのものは難しくはないが、選手の効率的な共通理解をサポートするのは難しい。そういった状況では、戦術分析というコミュニケーションツールが重要となる

 選手との言語的なコミュニケーションが誤解や忘却のような失敗のリスクを秘めている一方で、ビジュアルと説明の適切な組み合わせは「メッセージを明確に伝達すること」を可能にする。選手が正しく理解すれば、彼らの記憶は固定化される。彼らが経験を通して成長するとき、欠かせないのは正しい環境と文脈だ。コーチにとって最大の仕事となるのは、分析というツールを使いながら環境を整備することだ

 最適な環境は、最適な行動を促す。

 この関係性は、あるコーチによって説明されている。

「ゲームモデルとは、なんでしょう?それは、トレーニングと戦術分析を繋ぐものです。だからこそ、その2つの関係性は重要です。どちらも同じ方向へと向かっている必要があり、それは日々の取り組みの成果になります。自分たちのフットボール哲学を醸成しながら、競争を勝ち抜く力をつけること。ある意味では、正しい方向へと進んでいるかを証明するものなのです。あなたが求めるスタイルを定義し、クラブやリーグ、選手の特性を考慮しなければなりません。そして、あなたの方法論が選手たちを成長させていきます。そんな中で競争に晒された時、分析が自分自身のアイデアを追い求めることを助けてくれるはずです。コーチングという視点では、原則(Principle)を規定することが重要です。これはルールではありません。原則は開かれており、創造性や意思決定の余地を残しています。一方で、ルールは閉じられた概念です。コミュニケーションをオープンな状態に保つことで、チームは自分たちが持つ賢さや創造性を解き放つことになります。例えば、『後ろから組み立てましょう』という言葉を、『フリーな選手とフリーなスペースを見つけ、そこを使っていきましょう』という風に言い換えるだけで、自由度は高まります」

【Profile】

スワボミル・モラフスキ

若手指導者を積極的に登用するポーランドにおいて、若干30歳でUEFA-Aライセンスに合格した俊英。「認知科学」というアカデミックな知識をした分析と緻密なトレーニング設計に定評がある。大学ではフットボールマネージメントとコーチング、大学院では人的資源活用とコーチングを専攻。様々なクラブでアナリストとして活躍し、ポーランド1部シロンスク・ブロツワフではU-19アシスタントコーチとアナリスト部門のトップを兼任。2020年にはポルトガルリーグ1部のポルティモネンセでアナリスト兼コンサルタントを経験し、指導者教育にも携わっている。欧州では多くのセミナーや大学にも招待され、選手のプレー改善も得意としている。Jリーグの選手とも契約しているなど、活躍の場は多岐に渡っている。

訳者(結城康平)コメント

A「今回は、特に興味深い視点がありました」

B「突然の会話形式ですね。ちなみに、何が興味深かったんです?」

A「ゲームモデルについての言及。結局、時間をかけてゲームモデルを作っていくときに自らの哲学を追い求めていく『内向きのプロセス』になりやすいという課題はある気がしていて」

B「確かに『サッカー哲学の醸成』って言われると、延々と哲学をしているイメージになります。リージョ監督の禅問答みたいな」

A「ただ、結局ゲームモデルとかピリオダイゼーションみたいな理論をベースにしながらも日々の試合に勝ち抜かないといけない訳だ。現実問題。それが理想を妨げる

B「まあ、そうでしょうね。戦術家が時間をかけてチームを作る、みたいな」

A「そこで本研究でインタビューしている指導者が凄いのは、分析というツールを使うことでチーム哲学の醸成という主観的なプロセスに『客観的なプロセス』を加えながら試合に勝とうとしている。そのバランスに言及しているのが凄い」

B「いいとこどりってこと?」

A「練習と分析(試合)をサイクルで回しながら、選手とコミュニケーションしながらアイディアをチームに根付かせていくというプロセスが明確になっているのは、とても実践的だと思う。英語ではよく"Practical"というワードが使われる」

B「そういう意味では、一線で活躍する指導者が語る理論の面白さってことなんでしょうね」

A「うむ。ちなみに、この手法はらいかーるとさんをパクった」

B「らいかーるとさん、すいませんでした」

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